「げ」
「げ、とは失礼な対応だな。中国」
「うるさいアヘン。なんでお前がここにいるアヘン」


最悪だ。よりにもよってこんな奴に会うとは。
思わず漏らした素直な反応に、額に青筋を浮かべた英国が問いかけてくる。

せっかく訪ねてきたら日本が留守だったからと言って寄り道などせずにさっさと帰ればよかった。


「うるせーな!たまたま通りかかったから一杯飲んで行こうと思っただけだ!! べ、別に日本に会いに来たわけじゃないんだからな!!」
「顔を赤くして言っても、説得力ねえアルよ」


見下しながらハンッと鼻で笑ってやる。
なんだと!!と、簡単な挑発に乗った英国が突っかかってきた。

日本がこの我にとっては憎い仇でしかない国と親しいのは知っていた。
同じ島国同士、分かり合うこともあるのかもしれない。
同盟は破棄されて久しいのに、まだ交流は続いているのか。


正直、日英同盟が終った時は一人快哉をあげて喜んだものだ。
そして、心の隅で、この男と離れることで日本がどれだけ傷つくのかを考えてやるせない気持ちになった。



「だからうるさいアヘン。こんなんじゃ美国が愛想尽かすのも当然アヘン」

予想外にこの攻撃は聞いたらしい。
言葉に詰まり口をパクパクさせる男に顔が知らず笑いの形を作る。
この男が弟のように育ててきた国に反旗を翻されたことをいまだに気にしているのは、 はたから見ててもよくわかった。



「はんっ。お前だって日本に愛想尽かされたくせに」
「う、うるさいアヘン。お前には関係ないアヘンよ!」




痛いところを突かれた。これが人を呪わば穴二つというやつだろうか。
それ以前に自分もこの男と同じように弟分に裏切られたことを引きずっていると周りに思われているのか と思って愕然とした。


図星を突かれたと思われるのが不快で目の前の酒をあおる。 そもそもこんな奴と二人っきりだなんて、よっぽど飲まなきゃやってられない。
隣の男も同意見なのだろう。ペースを速めて飲み始めた。





「だいたい何日本に会いに来てるアルか。法国なり美国なり近くの国と仲良くしているよろし」
「なっ!お前には関係ないだろ!俺たちのことなんだからな!!」

ホントにムカつくやつだ。いちいち癇に障る。

「日本は変わってしまったあるよ!」
「あぁ?」
「それもこれもお前らの所為ある…!」


こいつ等さえ現れなきゃ、今も日本は自分とその他の亜細亜の国とだけ付き合って、 それで昔のようにやっていけたはずだ。我を裏切ることなんて、なかったはずなのに。
こいつ等さえ、いなければ。





「はっ、弟なんてみんな勝手に離れて行くもんだろ」


今までと違った静かな調子に思わず顔をあげる。 この男の顔なんて、見たくもなかったはずなのに。


「どんなに大切にしても最後は結局オレを置いてどこかに行くんだ」



英国の顔を見る。やつが顔をあげる。目が合う。




駄目だ、見るな、見るな!



碧の眼は隠しようもない悲しみをたたえていて、そこに自分の姿が見えた気がした。





「何が、悪かったアルかねぇ」

自重気味な笑いが漏れる。というかもう笑うしかないだろう。


「俺は悪くない」
「ふん。言ってろアル」



酔ったまましゃべり続けるが、酔っ払いの戯言にいちいち付き合ってられない。
こいつは本当に酒癖が悪いと、他人事のように思った。
いや実際他人事なのだが、今の状況で迷惑を被りそうなのは自分だという事実に頭が痛い。





こいつが日本を見る目はとても優しいものだったが、時折それは何かに脅えるような光を宿した。
拒絶を恐れる眼。一度大切なものに裏切られた眼だ。
だとすると、この男の異常なまでの日本への執着心もわからなくはないかもしれない。
まぁ行き過ぎた感は否めないが。


しかしそれで言うなら日本のこの男への執着もすごい。

他の国は(それにもしかしたらこいつも)気付いていないのかもしれないが、 付き合いの長い自分には日本の執着心は手に取るようにわかった。
あの何事にも動じなさそうな弟がこいつにだけは素直な感情を見せた。 それは珍しいと言ってもいいほどのことで。



ふと、こうやって日本の留守中に二人きりで飲んだことが知れたらただでは済まないかもしれないと、 シャレにならない事実に気づく。
いまさらどうしようもないことなので取り乱したりはしないが嬉しくない事実ではある。






いまだに美国への不満を吐き出す英国を見て、 もしかしたら自分とこいつは少し似ているのかもしれないと、酔いの回る頭で密かに思った。
それはとても不快なうえに残酷な感想だったので、けして口に出すことはしなかったが。




愛しかったのに離れていった。

とても大切だったのに裏切られた。


それなのになぜ我は、こいつは、自分たちを裏切った弟を嫌いきれないのだろうか。






「俺と日本が結婚したら、お前、俺の 義兄あにだぜ」
「冗談は顔だけにするアヘンよ!」





昔馴染みとつまずく石は 憎いながらも あとを見る

(そんな悪夢みたいなことがあってたまるか!!)















































加筆修正:2010/8/26