「ハルちゃんはかわいいね」

それは、本当に何気ない一言だった。



繰り返される日常の中のなんてことない一コマ。いつもだったらただ、その言葉に喜んで、笑いあえただろう。
それが出来なかったのは、私の目の前にあの人がいるからだ。


だめだ。いつものように、ハルらしく、笑わなければ。
私のプライドにかけても、この屈辱感と羞恥心を誰にも知られるわけにはいかない。
一瞬の間のあと、持てうる限りの忍耐力でもって彼女に返す。


「はひ〜でもでも!京子ちゃんの方がとってもプリティーですよ」

ツナさんに好かれるくらい。と心の中で付け足す。



彼女が彼の前で私を褒めるたび、言いようのない敗北感を感じる。
彼女になんの含みがないことも、私が勝手にそれを感じているだけだということもわかっているけど。




京子ちゃんのことは確かに好きだ。
可愛い友達で私にとって大事な存在でもある。

でも、だからと言ってツナさんに好かれている彼女に全く嫉妬しないわけじゃない。





ツナさんが京子ちゃんを好きなことくらい知っている。


最近、意気投合した京子ちゃんとは、一緒にツナさん家に行くことが多い。
そんなとき、必ずツナさんは京子ちゃんの方を先に見る。
本人が意識しているのかはわからない。
いや、たぶん無意識だろう。 好きな女の子をつい見てしまうのは当たり前だ。

ツナさんも獄寺さんも、私のことをニブイと言うが自分ではそこまで鈍くはないと思う。
少なくとも彼の視線の意味に気付かない彼女よりは。

好きな人の視線の方向くらいわかるし、それで何も感じないわけじゃない。


ただ、私は諦めが悪いだけだ。それくらいで諦められないくらい彼の事が好きなだけだ。






大好きな彼は、みんなから好かれている。
彼の周りにはいつも人が集まっていて、私は羨望や嫉妬の他にある種の誇らしさを感じる。


彼はすごいのだ。そして自分はそれを分かっている。

彼の魅力に気付いているのだ。


彼の魅力を理解している事実に満足感を覚える。


ランボちゃん達が騒いでいる中で、ツナさんの腕につかまってかき消されないように叫んでみる。


「ハルはマフィアのボスの妻になるんです!!」
「ちょ、何言ってんのハル!?」



冗談やおままごとだと思って言ってるわけじゃない。
覚悟ならとうに決めた。
真実だろ知っていてなおそんなことが言えるのは、彼のそばならどんな危険な状況でも平気だと思えるからだ。

あのすべてを包み込むような大空の様な人と一緒なら、何も怖くない。




「十代目から離れろ!アホ女!!」
「誰がアホですか!獄寺さんこそツナさんから離れてください!!」
「うるせぇ!俺は、十代目の右腕になるんだからな!!」


時々、獄寺さんがうらやましくなる。

彼は自分と似ている。同じような眼でツナさんを見ている。ライバルだ。
けど私たちはひたむきに彼を追いかけることしかできない。


それでも。

山本さんにも京子ちゃんのお兄さんにも負けられない。


でも、私は彼らのように強くないから、あの人を守ってあげることはできない。
足手まといでしかないなんて泣きたくなってくる。




「ちょ、二人ともやめてよ!!獄寺君もダイナマイト出さないで!!」


「ハハハ!ツナもてんなぁ〜」
「ふふ、にぎやかだね」

慌てるツナさんにそう言って笑う京子ちゃんと山本さん。







ねぇ、可愛い可愛い『京子ちゃん』?
貴女はそうやって彼の寵愛を受けて太陽のように笑っていればいい。
そのまま、自分の気持ちにも気付かずに、暖かい陽だまりの中でいればいい。

貴女が彼のことを意識しだしたのは知っています。貴女も彼も気づいていないようだけど。
それは貴女が今まで彼の気持ちに気付かないで、彼に対して鈍感でいたせいですよ。

今さら、彼の事が好きになるだなんてズルイ。彼を手に入れるなんて。
絶対に、彼だけは渡さない。
貴女が自分の気持ちに気付くのなんて待っててあげない。
女の子は、いつだって恋には貪欲なものですからね。







大好きな大好きなツナさん。
私は貴方の事が好きなのです。
誰にも渡したくないと思っているのです。

いま貴方の眼に映っているのが自分ではないとしても、私の眼には貴方しか映っていないのです。
どうか、お願いですから、私の気持ちを受け入れてください。
貴方のためなら何でもできるのです。

愛しています。貴方を心から愛しているのです。


ですから、お願いだから、







 わたしの方をふりむいて

 (あの子より、わたしの方が絶対にあなたを愛してるのに!!)



















加筆修正:2010/8/27