朝目覚めるといつも思う。
あぁ、今日もまだ生きていられたのかと。
おまえの心と氷室の雪は いつか世に出てとけるだろう
最近、文秀の仕事にようやく一段落がついたと人づてに聞いた。
その直後に具合が悪くなった私は、もしかしたら誰よりもずるいのかもしれない。
いつだって、心の底では考えている。
今なら彼にそばにいてもらっても平気だろうか。
大事な仕事のときに面倒な女だと思われないだろうか。
見捨てられたり、しないだろうか。
彼の気持ちが離れていくのが不安で逢いたくなる。
しかし、彼の邪魔をして疎まれるのが怖い。
ぐるぐると考えても体の方は正直で、忙しさが終った瞬間動きを悪くし彼を呼び寄せる。
「どうした、桂月香?大丈夫か?」
心配そうに私の顔をのぞきこんでくる文秀。
私の具合が悪くなったと聞いて、お見舞いに来てくれた彼の姿を見て感じたのは喜びとひそかな優越感だった。
「いいえ、大丈夫よ」
「そうか?ならいいんだが」
「文秀こそ大丈夫なの?わざわざお見舞いに来てくれたのはうれしいけど忙しいんじゃない?」
あまりにも白々しい自分の言葉を胸中でそっと嘲笑う。
本当は知っているくせに。
「いや、今はちょうど一段落ついたところだ。それにうちの軍には優秀な奴らが揃っているからな」
そういって笑う文秀。
そう言えばこの間、面白いやつが入ってきたと嬉しそうに言うのを聞いた気がする。
それを聞いて面白くないと思ったのは墓場まで持っていきたい秘密の一つだ。
自分とは違い、彼のそばで堂々と彼を守れる人たち対するただの嫉妬でしかない。
彼にはこの国だけでは狭すぎる。
それに世界はけして彼の才能をほっとかないだろう。
それぐらいわかっている。
でも、と思う。
いつか世界が彼を連れていく時まで。
いずれ私の寿命が尽きてしまう時まで。
その時までは、彼の一番近くにいるのは自分だと、自惚れてもいいだろうか。
加筆修正:2010/8/2